障害年金の最後の良心?再審査請求とはどういうもの?
掲載日:2023.10.20
障害年金の再審査請求とはどういうもの?
令和4年度分の統計を追加しリライトしました。
審査請求で社会保険審査官が下した処分に不服がある場合、もう一度不服を申し立てることができます。 これを再審査請求といいます。
再審査請求は、厚生労働省の社会保険審査会に対して行いますが、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して二月を経過したときは、することができないとされています。この期限を越えて請求された再審査請求は正当な理由がない限りは却下されることになります。
また、再審査請求は社会保険審査官の決定に対して行うのではなく、あくまで原処分に対して行うこととなります。ただ、棄却された社会保険審査官の決定の大部分は、保険者の意見(主張)にほぼ近しいものと考えられます。そのため、結果として社会保険審査官の棄却理由に対して反論することも多くあります。
社会保険審査会で行われる再審査請求には基本的に「公開審理」というものがあり、直接再審査請求人またはその代理人が厚生労働省に出向いて主張を述べる機会が設けられますが、社会保険審査会が公開審理を省略して請求人に有利な決定を出したり、保険者自らが原処分を変更することもあり、請求人も公開審理を欠席して再審査請求も文書のみで行うこともできます。
障害年金における再審査請求の現状
再審査請求件数は、平成25年度が2,152件、平成26年度受付分が2,163件、平成27年度受付分が2,149件と2100件台半ばで推移していましたが、平成28年度に2,011件、平成29年度が1,459件、平成30年度が1,630件、令和元年度が1,712件と減少に転じています。この傾向はさらに進み、令和2年度には1,294件、令和3年度は1,167件、令和4年度は806件と千件台を割り込みました。減少傾向となった時期は等級判定のガイドライン施行時期と重なっています。
障害関係に限ると、件数としては平成27年度の1,607件から令和元年度は1,383件と減少していますが、直近3年では国民年金・厚生年金保険ともにやや増加傾向にあります。(厚生労働省社会保険審査会年度別受付・裁決数推移)
再審査請求にも審査請求と同じように、保険者による処分の変更があります。
社会保険審査会では社会保険審査官以上に、保険者へ質問や意見を投げかけていると言われます。その結果、保険者が自身で処分の誤り等の請求者の主張を認め、処分変更を行います。
年度別推移でもわかるように、再審査請求が増加し続けてきた一方で、長いこと保険者による処分変更は減少し続けてきました。平成24年度に処理された2,312件に対して処分変更はわずか50件まで落ち込みましたが、平成25年度に84件と増加に転じ、平成26年度には233件と3倍近くにまで一挙に増加し、その後は請求件数減少に伴いやや減りましたが、令和元年度には172件と再び増加しています。令和4年度は再審査請求件数全体の減少もあり、79件が処分変更となりました。
令和4年度の容認率は13.73%
平成26年度で社会保険審査会が処理した2,003件のうち、処分変更が233件、容認が219件、合計452件が請求人側の主張を認めたものと考えられます。これを割合でいうと再審査請求の容認率は22.56%ということになります。同じく平成27年度は処分変更が236件、容認が227件で容認率は22.51%となっていましたが、平成28年度に潮目が変わったように思えます。平成28年度は処分変更が170件、容認が152件(処理総数2,161件中)となり、容認率は14.90%と大きく落ち込んでいます。平成29年度はこの流れを継続し、処分変更が130件、容認が99件(処理総数1,848件)で容認率は12.39%まで下がりました。この影響か、平成29年度は再審査請求の件数自体が27%以上減少し、処理件数は若干ペースを落としたものの、依然として月に140件近い裁決を行っていますので「積み残し」である繰り越しは850件と大きく減っています。
平成25年度に容認裁決数が大きく増加し、平成26年度には容認裁決数は維持したまま保険者の処分変更が大きく増加しました。平成27年度はこれを維持した形でしたが、平成28年度に処分変更、容認とも大きく件数を減らし、平成29年度はさらに容認率を下げました。その結果、容認率は22%余りから12%前半まで下がりました。これは直近10年で平成24年度の7.6%、平成23年度の10.93%に次ぐ低さです。
同じ計算で、平成30年度は13.78%、令和元年度は18.14%となりました。容認裁決自体が減少しているとみられ、平成27年度には11.04%ありましたが、令和元年度に至っては6.23%で保険者による処分変更によって容認率が上昇しているとみられます。令和4年度では容認率は13.73%となっています。
現在、障害年金受給者の半数以上は精神の障害(知的・発達・高次脳機能障害等を含む)であり、審査請求や再審査請求の場においても、等級判定のガイドライン開始が与えた影響は大きかったと言えます。等級の目安が示され、その結果、不服申し立てである審査請求・再審査請求の減少につながっていると考えられます。ガイドライン以前から障害年金に取り組んでいる弊社としては、その取り組みと結果については一定程度、評価できると考えます。
気になるのは容認裁決が減っている点です。裁決を経ての容認というのは、一目でわかるくらい減少していますが、社会保険審査会は裁決前に保険者へ多くの投げかけを行っていると言われています。それによって保険者による自主的な処分変更が増加している(少なくとも令和元年度は)という見方もできますので、この統計のみで再審査請求が厳しくなっていると言うことも一概にできません。いずれにしても、現在においても不利益な処分を受け、再審査請求したうちの13%もの人が、処分変更を受けているという現実があります。
審査請求と再審査請求の違いについて
多くの社会保険労務士は審査請求よりも再審査請求の方が期待が持てる、と感じていると思います。これは審査請求での処分取消が非常に少ないからです。以下は、平成24、25年度に関東信越厚生局社会保険審査官が行った審査請求に対する処分の割合です。
平成24・25年度審査請求取扱状況(関東信越厚生局)
これを見ると「審査請求はほとんど認められない」という意見は妥当と感じざるを得ません。よって再審査請求の方が期待が持てる、という体感につながります。せっかく審査請求をするのであれば、再審査請求までしなければ損です。審査請求と全く同じ主張であっても、社会保険審査会が認める可能性というのはあります。
ただし再審査請求は、審査請求よりも決定に時間がかかることが多くなっています。当事務所で扱う場合においても、再審査請求受付から決定までは8か月程度かかっています。
よって、最初に障害年金請求をしてから再審査請求までを含めると、1年半以上かかってしまうことも少なくありません。
この記事がお役に立ったらシェアお願いします。