障害年金の社会的治癒とは?不利益を受けないための考え方。
掲載日:2019.03.11
たとえば、今ある傷病が再発であって、最初にその傷病になった時と再発の間に何年も治療の空白があるとします。この間に、年金制度(国民年金、厚生年金)をまたいだり、保険料の納付要件を満たしたりする場合はどうなるでしょうか。これを埋めるための考え方が「社会的治癒」です。
社会的治癒の考え方と要件
社会的治癒は、医学的に治癒したとは言えなくても、年金請求上もそのように取り扱ってしまうと不利益が生じる際、「前の病気」と「後の病気」について、別々の病気として扱うことです。
(坂田のブログでも例を挙げて解説しています)
この時「前の病気」と「後の病気」は医学的に同じ傷病、または相当因果関係がある傷病になります。
具体的には、別の傷病として取り扱うことで初診日が変わってくるので、結果的に保険料納付要件を満たし請求が可能となったり、請求する制度(国民年金・厚生年金)が変わり、受けられる給付が変わることにつながります。そのため、障害年金請求においてはとても重要な考え方です。
上記の通り、社会的治癒は前の病気と後の病気が医学的に同一である、または因果関係がある、ときにこそ適用を検討するものです。医師が同じ病気と判断したとしても、障害年金上ではそう取り扱わないのが社会的治癒、ということになります。
社会的治癒が成立するためには、以下の点に当てはまることが必要とされています。
1.症状が消滅して社会復帰(就労など)や通常の日常生活が可能となったこと
2.治療投薬を必要とせず、外見上治癒した期間が一定程度継続すること
ただし2については予防的・維持的・経過観察的な治療が継続していても成立を妨げないとしています。
社会的治癒は法律や規定として定義されたものではなく、取扱いとして運用されているものです。そのため、治癒した期間がどの程度を指すのかは明確に決められておらず、障害認定基準にも書いてありません。実際の認定においても事例ごとに検討されています。
病気によっても異なり、特に精神疾患では長く(5年程度)求められることが多い傾向にあります。
余談ですが、健康保険法の傷病手当金についても同様に社会的治癒の考え方があります。同じ傷病で一度しか受給できないのが傷病手当金の原則ですが、社会的治癒が成立した場合は二度目の受給も考えられます。
社会的治癒は制度上、明記されたものではありません
確かに障害年金には、請求者の利益を守るための考え方として社会的治癒という考え方があります。
「考え方」と書いたのは、社会的治癒は制度上明記されたものではなく、これを満たせば必ず適用される、といった基準がないからです。個別に社会的治癒が認められるかを判断されることになりますから、認められなかった場合の処分(却下や不支給、給付が変わってしまうこと)についても、事前に十分検討しておく必要があります。
社会的治癒の考え方自体は難しくありませんが、どのように主張したら認められるか、そのためにはどういった証明書類を揃えるか、といった方針立てが難しく、再審査請求まで争うことを想定して請求する必要(覚悟)が必要になります。社会的治癒に該当する可能性のある方は、はじめから再審査請求まで扱ってもらえる社会保険労務士へご相談いただいた方が良いと思います。
一度初診日を判断して請求し、不支給となったあとに主張を覆すのは難しいものです。
知らない間に不利益を被りかねないもの
社会的治癒は、何も主張しないでいても認められる、という性質のものではありません。
たとえば、本来の初診日が国民年金、後の受診日が厚生年金加入中にあったとします。この場合、年金事務所等では「初めて医師の診療を受けた日が初診日ですよ」と案内するはずです。そしてそれ自体は間違いではありません。通常はそのように取り扱うのが障害年金であるからです。そのまま請求すれば、障害基礎年金の請求をすることになります。
この場合は、仮にその間に社会的治癒とみられる期間があったとしても、あくまで請求したのは障害基礎年金ですのでそのまま障害基礎年金として認定を受けることになります。
この時に、仮に社会保険労務士にご相談をいただいて、その社会保険労務士が適切な知識を持っていれば、その期間が社会的治癒に当たるか、またその主張をすべきか、どのように証明していくかということを判断すると思います。その結果、より有利な給付を受けられることも実際にあります。
主張せずにそのまま請求してしまうと、知らない間に不利な制度で請求している、ということもあり得るのが、社会的治癒と障害年金の怖いところです。
*追記
最近、社会的治癒の相談が増えています。ここで社会的治癒を解説しているからですが、社会的治癒は簡単に認定されるようなものではなく、それによって給付が大きく異なってしまうのであれば、再審査請求までかかる覚悟をして請求する必要があります。この場合、裁定請求から給付を得られるまでは2年ほどかかることも考えられます。それでもそういった請求をしなければならないことがあるのです。
再審査請求までいったとして、私たち社会保険労務士がやっていても受給権を得られるとは限りませんから、ご自身で行われても同様以上の困難があると思います。こうした初診日の争いがある場合、望むような受給権を得られなかった場合の不利益を考えると、社会保険労務士への依頼を検討いただいた方が良いと思います。
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