知的・発達・精神の障害における障害の程度ってなんだ?(2)
掲載日:2018.04.12
この記事には(1)があります。まずはそちらからご覧ください。
精神障害と就労について
等級判定ガイドラインでは「考慮すべき事項」を挙げています。ここでいう「考慮」とは以下の内容を指すとされています。
「考慮する」とは、診断書の記載内容をよく確認し、ガイドラインで例示している要素等を踏まえて、いずれの等級に相当するかを検討することです。
(日本年金機構年金給付部「精神の障害に係る等級判定ガイドラインQ&A【相談対応用】より)
また、「考慮すべき内容のうち「〇級の可能性を検討する」となっている要素は、例示に当たる内容が診断書等から確認される場合に、「〇級」に該当する可能性を検討するよう促す内容となっています。」としています。
このような記載は、以下の項目に記載されています。
(精神・知的・発達共通) 相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。 |
・就労系障害者福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障碍者雇用制度による就労については、1級又は2級の可能性を検討する。 ・障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害者福祉サービスや障碍者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合には、2級の可能性を検討する。 |
(知的・発達共通) 仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であれば、それを考慮する。 |
一般企業で就労している場合(障碍者雇用制度による就労を含む)でも、仕事の内容が保護的な環境下での専ら単純かつ反復的な業務であれば、2級の可能性を検討する。 |
(知的・発達共通) 仕事場での意思疎通の状況を考慮する。 |
一般企業で就労している場合(障碍者雇用制度による就労を含む)でも、他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適応な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。 |
(知的) 発育・養育歴、教育歴などについて、考慮する。 |
特別支援教育、またはそれに相当する支援の教育歴がある場合は、2級の可能性を検討する。 |
(知的) 療育手帳の有無や区分を考慮する。 |
療育手帳の判定区分が中度以上(知能指数がおおむね50以下)の場合は、1級または2級の可能性を検討する。 それより軽度の区分である場合は、不適応行動等により日常生活に著しい制限が認められる場合は、2級の可能性を検討する。 |
(知的) 中高年になってから判明し請求する知的障害については、幼少期の状況を考慮する。 |
療育手帳がない場合、幼少期から知的障害があることが、養護学校や特殊学級の在籍状況、通知表などから客観的に確認できる場合は、2級の可能性を検討する。 |
(発達) 執着が強く、臨機応変な対応が困難である等により常時の管理・指導が必要な場合は、それを考慮する。 |
一般企業で就労している場合(障碍者雇用制度による就労を含む)でも、執着が強く、臨機応変な対応が困難であることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。 |
(発達) 知的障害を伴う発達障害の場合、発達障害の状況も勘案して療育手帳を考慮する。 |
療育手帳の判定区分が中度より軽い場合は、発達障害の症状により日常生活に著しい制限が認められれば、1級または2級の可能性を検討する。 |
つまり、表の判定平均と程度によって導き出される等級とはあくまで「目安」に過ぎず、必ず診断書を認定医が確認して等級を判断することになっています。
今後、目安と異なる結果となり等級を争うことが予想され、その際には保険者は「目安に過ぎない」という主張をしてくるものと考えられます。
精神障害と就労について
就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。
したがって、現に労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するととともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
とされていることは前ページでも書きましたが、上記の障害認定基準の中には「勤続年数」が記載されていません。これにはしっかりとした理由があります。それはこの認定基準を作った際の専門家会合で語られています。
○(座長)内容的にはどうですか。「従事する期間」のところに線が引いてあるのは、事務局としてのどういう配慮ですか。
○(事務局)発達障害のほうは従事している期間があるのですが、知的のほうは従事している期間を抜いています。前回は入れていましたが、知的障害の人たちにとってはあまりそぐわないのではないかという意見がありましたので抜いています。実際に長さではないと、長く勤めているから日常生活がよくなっていると見られるものではないので比較はできないという意見をいただきましたので、そこの部分を除いています。
○(座長)今のは発達障害のほうには入っているが、知的障害のほうには入っていないということで確認しました。
○(事務局)要るか要らないかは後で確認します。
(略)
○(事務局)(5)です。前回は知的のほうにも入れてはどうかという指摘をいただきました。入れるに当たって、先ほどお話しした「従事している期間」という言葉が必要かどうか。知的には要らないのではないかということで除きました。発達障害も同じような状態であれば、ここは除いたほうがいいと思いますが、確認をさせていただきたいところです。
○(座長)これについてどうぞ。
○(○○委員)これも知的障害と同じで「期間」は要らないと思います。発達障害の場合は、長く就労していても特性が継続するので、だから支援が要らないということにならない。ここは抜いたほうがいいと思います。
○(座長)「期間」の問題ではないということです。他の委員の方は今の発言に対してどうですか。○○委員、○○委員もよろしいですか。これは除くということで。
○(事務局)分かりました。除くという形にします。
(2011年3月24日 障害年金の認定(知的障害等)に関する専門家会合第3回議事録)
上記のような経緯があり、障害認定基準から「従事している期間」というのは除かれたわけです。専門家による議論の末に「従事している期間」は「長く勤めているから日常生活が良くなっていると見られるものではない」としているのですから、当然勤続年数などを含めるのは相当ではありません。
しかしそれでも、社会保険審査官の書く決定書、また社会保険審査会の裁決書においても「〇年にわたって就労していることが認められ、これを総合的に勘案すると2級に該当しない」などとする裁決が見られます。こうした解釈は、上記のような趣旨から認定基準に含まれなかったことから鑑みても許されないのではないでしょうか。
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