知的障がいの障害基礎年金請求の注意点
掲載日:2023.07.25
ここ6年ほど、埼玉県内の特別支援学校に進路説明会の指導者として招かれ、卒業される生徒さん、ご家族向けに障害年金の講演をしています。知的障害の障害年金請求は、一般的な精神障害の障害年金請求とは少し異なるところがあり、考えておくべき点があります。
(関連記事:二十歳前傷病による障害基礎年金ってどんな制度?)
障害基礎年金について知っておくタイミング
特別支援学校で卒業時に障害年金のお話をするのはとても有意義だと思っています。
基本的に特別支援学校は18歳で卒業するわけですが、その後は就職する方、就労移行支援に行く方、A型、B型に行く方など進路が分かれてきます。障害基礎年金の請求ができるようになる20歳まではまだ少し時間があるわけですが、その後スムーズに障害年金の情報が伝わらなかったり、ついうっかり請求のタイミングを逃してしまうことも考えられます。
請求ができるようになる20歳より前に障害年金の知識を入れておくのが望ましいわけですが、それにはやはり特別支援学校で、在学中に案内するのが漏れもなく効率的です。卒業してからも多くの場合は保護者のネットワークで知ることになりますが、自己努力には幅がありますし、場合によっては漏れが出てしまうことも考えられます。
肝心の20歳になったタイミングでも、ご家族も多忙ですから請求を先延ばししてしまったり、本当に受給できるのかな、という不安から、悩んでいるうちに時間が経ってしまうこともあります。そのため、卒業時に障害年金請求について正しい知識を得ておくことが重要です。たとえば「ウチの子は療育手帳Cだから・・・(埼玉は軽度知的障害はCです。都道府県によって異なります)障害年金はもらえないのではないかしら」という親御さんが必ずおられますが、療育手帳の等級は気にする必要がありません。
生徒さんには「20歳になったら手続きがあるから、ちゃんと覚えていてね。保護者の方が忘れていたら教えてあげてね」という話をします。
知的障害の障害年金請求:診断書取得の問題
知的障害の方の特有の問題として挙げられるのは、診断書取得をどうするか、という問題です。
精神の障害で障害年金を請求する場合、ほとんどはかかりつけ医に診断書を書いてもらうことになります。精神の障害では定期的な通院(2週に1度、1か月に1度など)があるのが通常だからです。しかし、知的障害の方で他に多動などがなく、日常生活に日ごろの工夫で対応できている場合には、通院がないことが少なくありません。
通院がない、ということはその方の日常生活能力を把握している医師がいないということになり、精神(知的)障害の障害年金は日常生活能力で認定をされるわけですから、受給権発生には大きな問題が生じる、ということになります。
たとえば大きな駅の駅前にはメンタルクリニック、心療内科がたくさんあると思います。意外に思われるかもしれませんが、知的障害の方が20歳になって診断書作成のために受診をしようとすると、多くの場合、断られてしまいます。親御さんはそこで憤ったり戸惑ったりされるわけですが、元々精神科では飛び込みで診断書を書いてもらうというのは非常に難しいのです。
障害基礎年金は認められると大体月6万5千円(+年金生活者支援給付金5千円)が一定期間出てしまう大きな給付ですので、医師も診断書作成に慎重になって当然であり妥当です。そうあって欲しいとも思います。さらにメンタルクリニック、心療内科の主な患者さんはうつ病、双極性障害といった精神疾患なので、日常的に知的障害の方を多く見ているとは限りません。
ですので、20歳になったときにどうするか、ということを18歳の特別支援学校卒業のタイミングで考えておくことは有意義なのです。
具体的な対応策1:飛び込みで書いてくれる医療機関を探しておく
駅前のメンタルクリニックや心療内科のほかに、精神科病院があります。こうした医療機関では知的障害の方が20歳になったタイミングで困ることがわかっていますので、受診して診断書を作成してくれる場合があります。また、こうした情報は親御さんのネットワークでも「〇〇病院で書いてもらった」など回ってくると思います。これも解決策の一つにはなります。
ただ、この場合もう一つ考えておいていただきたいのは、知的障害の障害年金の多くでは更新がある、ということです。
つまり、数年経つとあらためて障害状態確認届の提出が必要で、その際にはまた困ることになりかねない、ということです。今の医師は診断書を書いてくれたとしても、数年後に医師が変わっていたり、医療機関の体制が変わったりして(場合によっては廃院したりして)、診断書取得できないということもありえます。
ちなみに更新があるかどうか、というのは等級を決めるときに一緒に認定医が決めていて、1年から5年の間で人によって違います。更新がない(いわゆる永久認定)の人もいます。が、この基準はわかりません。
具体的な対応策2:定期的に通院しておく
元も子もありませんが、結局のところ、これを上回る対応策はありません。
通院しても、日常生活は何も変わらないかもしれません。ただ、医療とつながる安心感、何かあったときにかかりつけ医がいるという安心感、また障害年金請求への安心感は得られます。18歳から通院を始めても20歳到達までは2年弱ありますから、その間に就労などを通じて状態(特に情緒面)の変化があることも考えられます。そうしたときの相談先として確保しておくのは決して悪い選択ではないのではないでしょうか。また、これまで日常生活の中で親御さんが当たり前と思っていたことであっても、良い方向に進める点があるかもしれません。
医師にとっても、診断書作成のために飛び込みで受診した患者さんよりも、何度も診ている患者さんの方が状態についてもよくわかるはずです。同様に患者側からも医師との相性を確認する機会にもなるでしょう。これは飛び込みではどうしようもありません。
いずれにしても、20歳になったら障害基礎年金の請求を行う、ということを視野に入れて、そのときの対応を考えておくのが大切です。
この記事がお役に立ったらシェアお願いします。