「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(案)」パブリックコメント募集について
掲載日:2015.08.17
平成27年2月より厚生労働省にて「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」が開かれています。
それらがまとまり、現在パブリックコメントを募集しています。締切は平成27年9月10日です。
少しでも多くの意見が出ればと思いますが、要点と障害ねんきんナビの考えを記載します。
障害基礎年金の地域差にかかる専門家会合について
元々この問題は、日本年金機構において障害基礎年金の認定に地域差があることが報道で出たことが端を発します。
それまでも障害年金に携わる社会保険労務士においては、障害基礎年金の認定が各都道府県におかれている事務センターで行われており、そのため「この県はおかしい」「この県は通りやすいのでは」ということはかねてより言われていました。これがデータとして公表されたことが始まりです。
その後、厚生労働省は「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」を開催し、
地域差の是正に取り組むとしました。第1回の会議おいて大臣官房樽見年金管理審議官は以下のように述べています。
この検討会では、精神障害及び知的障害の認定において地域差による不公平が生じないようにするという観点から、等級判定のガイドラインとなる客観的な指標でありますとか、あるいは就労状況の評価のあり方でありますとか、そういったものについて専門的な見地からのご意見、ご助言をいただきたいと考えている
同様に、厚生労働省年金局事業管理課事業管理課の和田給付事業室長補佐も趣旨を述べています。
まず、専門家検討会の開催の趣旨でございます。冒頭、挨拶でもありましたけれども、都道府県下における障害基礎年金の認定事務の実態を調査しましたところ、精神障害及び知的障害の認定において、地域によりその傾向に違いがあることが確認されました。その結果を踏まえまして、精神・知的障害の認定において地域差による不公平が生じないようガイドラインとなる客観的な指標などを検討するため、大臣官房年金管理審議官が専門家の参集を求め、開催するものでございます。
これを見ると、障害基礎年金の認定に関する地域差の検討会であることがよくわかります。
しかし、今回のパブリックコメントの題は
「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン(案)」になっています。
これだけを見ると、障害基礎年金と障害厚生年金の認定を統一するかのように見えます。
障害基礎年金には2級までしかなく、障害厚生年金には3級まであります。
どちらも認定する基準である障害認定基準は同じですから、厚生年金の方がより軽い障害状態でも年金の給付が行われることとなります。
しかし、それでは20歳前傷病の方など障害基礎年金の対象となる方にとっては、かなり認定基準が厳しく、多くの方が受給権を得られない、または支給停止となることもあり、障害基礎年金2級は障害厚生年金2級よりも運用上、軽い障害状態でも出やすい環境下にあります。これは制度としての矛盾を抱えているのはもちろんですが、そうしてこざるを得なかったのです。
統一化すること自体に、障害ねんきんナビは反対をしません。
しかし、多くの方が大きく不利益を受ける可能性がある形での統一は反対です。
その担保がきちんとなされるべきであり、その議論がなされるべきです。何より今回の会議の趣旨とは異なります。よって実質的に認定に大きな影響を与える本ガイドラインの策定には議論が不足していると考えます。
具体的な変更箇所について
ガイドラインで大きく問題になりそうな点は以下の箇所です。
(第6回専門家会合資料より)
問題は、「2.5以上3.0未満」の(3)の黄緑となっている部分です。
この箇所は「2級又は3級」となっていますが、障害基礎年金に3級はありませんので不支給(受給権が得られない、または更新時に支給停止)となります。ここは少なくとも第5回の資料では2級とされていました。しかし第6回では2級又は3級(不支給)に変更されています。これはあまりに大きな変更です。
「3.0以上」とは、診断書裏面左がの日常生活能力で全ての項目が「右から2番目」で3.0です。このようなケースは少なく「2.5以上3.0未満」の(3)が多いと思われます。これらが不支給というのはほとんどの県で明らかに現状よりも厳しい判断となるでしょう。
つまりこのガイドラインは認定基準を上げる方向で調整されようとしています。
認定医の発言
第5回の議事録が掲載されていますが、認定医は以下のように述べています。
(青嶌構成員)
気分障害についての「現在の病状又は状態像」というところなんですが、気分障害で、いつも思うんですけれども、要するに、基本的に気分障害と統合失調症とは、障害年金相当ということを考えた場合に、ベクトルがちょっと異なる疾患群であると。なので、ここの、特に気分障害のことに関しての記載は、要するに、重症なときだけのエピソードが羅列されているので、それが持続的に続くというのはごく少数であり、かつ、そういう人は入院適用で、入院しなければ一般生活できない。障害年金をもらっていて気分障害でというのは、いまいち、僕的には、ほかの統合失調症、精神、発達遅滞等とはちょっと異なるという印象を強く持っております。以上です。
(安西座長)
なるほど。どっちかというと、気分障害の記載は、希死念慮の有無、自殺企図の有無、深刻さというのは急性期の症状ではないかということですが、イタリックのところで、こういった希死念慮等が継続的に認められれば2級以上の可能性を考慮するという。
(青嶌構成員)
これがあるから年金適用で、かつ2級であるというように誤解されるのは、今でさえかなりそういう傾向があるので、こういう文章が今後出たら、さらに拍車をかけてしまうんじゃないかと思います。
(安西座長)
これはどういうふうに修正するのがより適当なんだろうと思われますか。
(青嶌構成員)
基本的に気分障害で年金相当であることは、主治医がその程度重症度が完璧に書けるぐらいの診断書が出なければ、本来はちょっと違うんじゃないかと思います。
(安西座長)
適切な治療が行われても、治療反応性といいますか、標準的な治療を行ったけれども改善しないで遷延しているということがかなり、治療経過、診断症状が明確に書かれないと証拠とはならないということでしょうかね。
(青嶌構成員)
ある意味、自分が治療できないということを公にする指標になってしまうぐらいの覚悟がなければ、その診断名でこの年金診断書を書くのはどうかなと常に思っています。
(安西座長)
確かに。
じゃ、後藤先生。
(後藤構成員)
青嶌先生の意見に賛成なんですけれども、時代の趨勢がどうもね、前回も言ったんですけれども、昔はうつ病で障害年金を書くというのは恥だったので、絶対そういうのは出てこなかったです、二十数年前ですけれども。
よっぽどずっと入院されていて自殺念慮がとれないとか、本当に10年ぐらいうつうつとして外に出ないという、本来言われていた難治性の重い人というのでようやく、でも、それでも2級ですよねっていう、そんな感じで、そういう時代だったと思いますが、本当に最近は、だから、気分障害ってひとくくりにするのではなく、やはり、有井先生のご意見にもあったと思うんですが、双極性の1型、例えば、ラピッドサイクラーで、もう1年の中で何回もそうがあるというふうなものは、やはりかなり障害の程度は重いですから、そういうふうに少し厳密に、今、青嶌先生が言われたように、本当に長期で固定して治らないんだというのが明確にわかるような診断書の記載を求めるというのがどうしても必要ではないかという気がします。
障害ねんきんナビはこう考えます。
障害ねんきんナビはこの見方に非常に疑問を抱きます。
特に後藤構成員の「昔はうつ病で障害年金(の診断書)を書くというのは恥だった。絶対そういうのは出てこなかった」
靑嶌構成員の「特に気分障害のことに関しての記載は、要するに、重症なときだけのエピソードが羅列されているので、それが持続的に続くというのはごく少数であり、かつ、そういう人は入院適用で、入院しなければ一般生活できない。障害年金をもらっていて気分障害でというのは、いまいち、僕的には、ほかの統合失調症、精神、発達遅滞等とはちょっと異なるという印象を強く持っております。」という下りです。
青嶌医師は、言い換えれば、一過性である重症なエピソードなんて聞いても意味がないし、それが持続的に続かなければ年金は出すべきじゃない。そしてそういう人は入院しないと生活できるわけがない、と言っています。
第1回資料によればこの靑嶌医師はワコウクリニック院長であるわけですが、ワコウクリニックではそういう診断の仕方なのでしょう。靑嶌医師は「自分が治療できないということを公にする指標になってしまうぐらいの覚悟がなければ、その診断名でこの年金診断書を書くのはどうかなと」思い、おそらく相当のことがなければ気分障害で診断書を書かないのだと思います。
しかしこれは個人的な考え方に過ぎず、認定医がガイドライン作成の場でこのような見解を述べることに大きな違和感があります。
なぜなら障害年金の障害認定基準は専門家会合で策定されており、日本年金機構、そして認定医の仕事はそれを適切に運用することであるはずです。ただでさえまともに認定ができていない認定医がガイドライン作成に専門家として関わることにさえ疑問があるのに、「うつ病の診断の在り方」や「自分が治療ができない時点でようやく気分障害(うつ病)の診断書を書くべき」ということまで考えることができるのでしょうか。
何度も書きますが認定医の仕事は認定基準を適切に運用することです。個人の考えがそれぞれあるのがわかりますが、精神科医のコンセンサスが得られたものをもって障害年金の障害認定基準とは作られるべきであって、そのために専門家会合があるわけです。つまり精神科医の間で共通化した、バランスある考え方を述べられることこそが高度な専門性であるともいえます。
このような議論は「障害認定の地域差による不公平が生じないよう」という趣旨で語られる場で行うべきではなく、精神の障害認定基準に関する専門家会合で行うべきです。しかしいずれにしても認定医がこのような考えを持って認定作業を行っていれば、それは当然に地域差を生み、それこそが問題の根幹ではないでしょうか。
会合を傍聴して認定医の物言いを聞いていると、診断書を作成する精神科医の問題点を指摘することはあっても、認定医からは自身が地域差を生んでいるという認識は微塵も感じられません。どんなガイドラインがあっても最終的に「認定医の範疇」を設ける以上、考え方を統一することができないのであれば地域差がなくならないのは火を見るより明らかです。
よって現行の案によるガイドラインは地域差の是正に有効でないと考えます。